2013年10月講座

「週刊誌から見た激動の2013年」

サンデー毎日編集長
潟永 秀一郎 氏

 

 実は昨日、「サンデー毎日」の先輩編集長の牧太郎さんと一緒に、3時間にわたって、みのもんたさんに単独インタビューをしてきました。その話を今、全部すれば一番喜んでいただけると思いますが、そういうわけにもまいりません。来週号に全て載りますので、ぜひ読んでいただければと思います。

 牧さんとみのさんは一緒に毎日新聞を受けた仲で、牧さんは受かってみのさんは残念ながらということで、それ以来お付き合いがあるようです。ちなみに、みのさんはTBSも落ちたのですが、そのとき最終面接に残った一人が久米宏さんでした。みのさんはそもそもジャーナリスト志望だったということで、ご存じのとおり文化放送に入られて、その後フリーになられ、一旦は自分の会社に専念されながら、「おもいッきりテレビ」で復活といいますか、ブレークされました。

 昨日、話を聞いていて、ああ、そうだったんだと思いましたけれども、「おもいッきりテレビ」と「朝ズバッ!」が重なっていた時期があるんです。その頃、ギネスブックに世界一出演時間の長い司会者ということで登録されたわけですけれども、それはものすごいバイタリティーです。月曜日から土曜日まで毎週出演していました。それも都内に住めばいいのに鎌倉から通っていらっしゃる。往復だけでも優に3時間はかかるのですから、その体力やすごいことです。今回、70歳を前にして無念の降板ということになりましたけれども、本当は報道番組の「朝ズバッ!」は何としてもやりたかったということです。よそのテレビの昼の番組に出ている人を他局の朝の番組に引っ張ってくるというのは通常は反則なんですが、みのさんが「おもいッきりテレビ」に出ていらっしゃった時にお願いされて、ご本人も報道の仕事をどうしてもやりたいという思いがあって引き受けられた。その時に自分を誘ってくれた恩人が今のTBSの会長で、その方にこれ以上迷惑をかけるわけにいかないということで降りた、という話をされていました。

 それから今回の事件では、話が変わっていったともおっしゃっていました。最初は成人した子どもが起こしたことに親が責任を取らなければいけないのかという話だったのが、3週目ぐらいから、みのもんたはとんでもないやつだという話になって、オセロゲームの白が全部黒に変わるように変わっていったのが残念だと語っていました。確かにこれまで芸能界、政治家も含めて、子どもさんが事件を起こしている例はいっぱいあります。例えば歌舞伎界の名跡の跡取り息子が六本木で酔って事件を起こして、お父さんがおわびの会見をされた。みのさんも確かにあの時、番組の中で「何をやっているんだ」と言ったけれども、親に仕事を辞めろと言った覚えはないと。それが今回は途中から、みのさんは政治家と親しいからだめだとか、1回の出演料はいくらだとか、豪邸を構えて暮らしているとか、銀座で飲み歩いているとかいう話になっていったわけです。

 そのことに関して言うと、みのさんはギネスブックに載るくらい働いて、テレビの出演料も確かに高いです。著名な方が1週間の帯番組を持っていたら、出演料だけで年間で億になります。帯番組をやるとほかに出られないので、ある意味それに対する補償です。みのさんにこれから講演の仕事があるかどうかわかりませんが、あのクラスだと1回の講演料は100万円ぐらいです。そう考えると、みのさんの場合、今、週刊誌で言われている1日の出演料が200万円というのはそんなに高くないのかなと思います。芸能人だと、例えばSMAPの方が番組を1個持てば、週1回でも億です。別にみのさんをかばっているわけでも何でもなくて、そこの金銭感覚というか、業界の相場というのがあるわけです。ところが、それも含めて全部オセロゲームの白が黒になってしまいました。

 最近の週刊誌の話で言うと、オセロの白から黒に変わった典型は民主党です。4年半前の総選挙であれだけの支持を集めて、ものすごい期待を背負った。新聞も含めてマスコミが政権交代、政権交代とあおったというので叩かれましたけれども、それは認めます。正直言って期待しました。例えば民主党の政治家は、今はそうでもありませんが、政権交代前で言いますと、7奉行と言われたような方々でも、「今、どこにいます」と聞くと、「マックの2階でパソコンを打っている」という感じで、その素人っぽさに期待したわけです。今だから素人っぽさと言いますけれども、当時は、庶民的な地べたに近いところで我々が思っていることと同じことを考えてくれる方々が「このダムは要るのか」とか、「この新幹線の駅は要るのか」とか、「子どもがこれだけ減っているんだから子ども手当を含めて子どもにもっとお金をかけよう」とか、「高速道路はただにしようか」というようなことを言っていて、ものすごい期待があった。けれど、結局は全部裏切られた感があります。その反動としての衆院選が昨年12月にあって、まだ1年たっていないんです。あの時に自民と公明で325議席と、まるっきり数字がひっくり返ってしまったけれども、投票率は低かった。この間の参院選も自・公で135議席という結果で逆転したわけですが、この時も各地で最低の投票率だった。だから、今の政治状況というのは民主党の期待感に対する反動、怒りなんです。

 そういう意味で言うと、安倍晋三さんは本当についています。去年の自民党総裁選のことを思い起こすと、あの時、最有力は幹事長だった石原伸晃さんで、週刊誌もそう書いていました。当時の都知事だったお父さんの悲願でもあったし、単純に支持票を足し算していくとそうなるなと思っていました。ところが、当時の総裁の降ろし方で間違えました。幹事長が総裁の足を引っ張ったみたいに見られて、流れを変えたのは麻生太郎発言です。「俺の義理人情では許せない」と。永田町というのはそういう世界で、それでがらっと空気が変わって、台頭してきたのは石破茂さんだった。地方票も石破さんでしたが、石原さんを推していた人たちは石破さんが嫌いだから、結局、敵の敵が味方になったわけです。

 まず民主党があんなばかな政治をしなければ、あるいは、よく言われたのは、最初に鳩山由紀夫さんじゃなくて小沢一郎さんを総理にしておけばとか、3・11の時に菅直人さんじゃなくて小沢さんが総理だったらということでした。民主党の素人集団の中で、良くも悪くも政権中枢にいた経験のある小沢さん待望論というのがあったけれども、それも事件でついえて、行き着いたのが野田政権。それも、離党者が相次いでもたなくなって、小選挙区制ですから結果は極端にふれます。そうして生まれたのが安倍政権なんです。

 週刊誌で言いますと、民主党政権が生まれる前後は、とにかくトップ記事は政治でして、「サンデー毎日」もよく売れました。週刊誌の全体の中で立ち位置で言うと「週刊文春」「週刊新潮」といったところがどちらかというと右系で、私は「サンデー毎日」はフラットだと思っていますが、「週刊朝日」とかうちとか新聞社系と言われているところは左系といわれ、どちらも政治への興味から売れました。ところが、政治が停滞してきて、政治不信が高まると共に、政治ネタでは週刊誌は売れなくなってしまいました。

 では今、何が読まれているのか。週刊誌にはいくつか「鉄板」と言われているネタがあって、その一つが皇室です。これは総合週刊誌だけでなく女性誌など各誌にほぼ毎週出ていますから、ご覧になっていただければわかると思います。さらに今、皇室の中でどなたの話題が読まれるかというと、雅子様です。天皇・皇后両陛下と皇太子さま雅子さまとの関係、弟君である秋篠宮ご夫妻との関係、雅子様の子育てなどなど、多くの人が興味を持つ「家族」の問題の要素が、そこにはすべてあるからです。週刊誌は皆さんの本音のところ、建前じゃないところに訴えるので、皇室の記事が売れるわけです。

 それから、最近、鉄板なのは健康と税金です。「エコノミスト」「東洋経済」「ダイヤモンド」といったいわゆる経済誌、あるいはマネー誌と言われているところの鉄板企画は相続税で、あなたの税金はこうやって減らせますみたいな裏技は、何度やっても売れます。だから週刊誌もやるんです。うちで最近売れた税関係の見出しで言うと、「こんなことはやってはいけない税の裏技」ということで、「やってはいけない」と書くと買ってくれるんですが、それは新聞ではできません。

 健康と相続税がなぜ売れるかというと、週刊誌の読者で極めて多いのは団塊の世代で、「右手に少年マガジン、左手に朝日ジャーナル」と言われた方々がそのままずっと週刊誌を読んでくださっているんです。だから、どこの週刊誌もいかに講読層を下げるかというのがテーマになっています。下げるといっても20代とかではなくて、とにかく30~40代にもうちょっと週刊誌を読んでほしいと思うのですが、実はものすごく大きな断絶があります。かつて団塊の世代の皆さんと戦中派の親御さんとの間に、戦争を経験したかしていないかというところですごい断絶があると言われました。そして、どうもその次の断絶は、バブルを知っているか知らないかなんです。例えば会社でも40代まではまだ話が合うんですが、30代になると合いません。30代の彼らは生まれてからこれまで、あまりいい目にあってないんです。かつてはタクシーチケットをみんな普通に持って使っていたとか、接待で銀座に出たとかいう話を聞いても、それは誰の話ですかといった感覚です。私も目撃しましたが、バブルのさなかには、六本木で夜中の1時になると、みんな1万円札を振ってタクシーを止めていました。当時はそうしないと止まってくれなかったのでしょうが、そんな話をすると30代以下は腹が立つんです。就職率は悪いし、会社に入ったらブラック企業で、年金だって自分たちの世代は間違いなく払った額よりは返ってこない。だから、戦中派と戦後派の次に来る断絶は、バブル前かバブル後かだと思います。

 もう1つは、30代以下の世代は最初から携帯電話があったけれども、バブル世代までは最初はポケベルで、やがて携帯電話になった。ワープロからやがてパソコンになったというITの変化を感じてきた世代です、ですから、既にあった世代はそれをどう使うかなんです。情報などもみんなスマホやパソコンから入手しますから、そもそも週刊誌や雑誌を読みません。私は母校の青山学院大学で講義をしたことがありますが、百何十人入る教室で新聞を取っているのは1割ぐらいで、みんなニュースサイトで見ているのです。なぜそうなったかというと、今の学生さんは毎月通信費で1万数千円使っています。それは私たちが学生時代にはない出費です。家賃も増えていて、バブル後は風呂付きになりました。バブルで東京、あるいは大阪、京都の地代が上がって、固定資産税とか補修費とかいろいろなことを考えると、家主さんがペイするためには月3万円で貸せなくなった。そうなると、同じ広さで5~6万円取るために風呂付きにする。こうして2階建てのぼろアパートがどんどん3階建てに建て替わって、風呂付きになったというわけです。

 私は仕送りが3~4万円でしたけれども、それでもバイト代を入れて月10万~12万円は使っていたと思います。実は、今の大学生も収入はそんなに変わっていません。だけど、そのうちの6万円が家賃で出ていって、通信費が1万円以上出ていきます。そうすると、親が一生懸命頑張って10万円仕送りして、バイトで4万円稼いで、収入が14万円あったとしても、家賃と通信費で半分飛びます。それに定期代だの何だのといっていたら、確かに新聞を取ったり本を買ったりする金はないんです。

 新聞をきちんと読んで、もっと本音のところを例えば週刊誌で知る。我々は新聞記者になって、ずっとそれしかやっていませんが、それで世の中の動きは大概わかります。取材をしているから、さらにその裏も知りますけれども、基本的に隠し立てはしません。特に週刊誌は知ったことは全部出します。だから、きちんと読んでいれば世の中がわかるはずなんです。私は入社試験の面接官もやりましたけれども、平然と「新聞は取っていません。御社の新聞はニュースサイトで毎日拝見しております」と言う学生がいるんです。しかし、入社試験に受かった学生は、新聞を取っている学生、本を読んでいる学生です。それはうちだけではないと思います。私が週刊誌の編集長になってから、いろいろな企業の広報部長さんと宴席を共にする機会があります。そういう時に人事・総務畑を歩んでこられた方の話を聞くと、「結果的に通るのはそういう学生だよね」とおっしゃいます。

 もう1つ、最近、週刊誌で鉄板ネタと言われるのは食の安全です。これはトレンドがありまして、3・11の時ほど建前と本音が分かれたことはないと思います。放射性ごみの引き受け先について、皆さん総論は賛成で、引き受けるよ、痛みは分かち合おうとなります。でも、私自身もそうですが、募金できるお金があったらしよう、何か自分にできることはないかと思う一方で、ゴミを捨てるのはお宅の近くですとなったら、そうはいかなくなる。例えばシイタケから放射能が出たとか、汚染水がジャブジャブ漏れて海に流れているとか、あるいは山間部に降り積もったものが流れて淡水魚に結構高い値が出たとかいう時に、いろいろな雑誌が調査データの一覧表を載せたところ、やはり売れました。年配の方はそんなに影響は気にしないというおっしゃる方が多く、大変な思いをしている福島の農家の米を食べてあげようという気持ちになるかもしれませんが、お子さんが小さい方とか、自分の娘さんが結婚したばかりでこれから子どもをつくるかもしれないという方は、やはり気になって記事を読むんですね。

 3・11から2年たって、最近どうなっているかというと、今、中国バッシングと重なって、いくつかの雑誌が中国の食は危ないという特集を繰り返して、これがまた売れるんです。特に安倍政権になってからは、中国と韓国を叩いていれば売れるという風潮がありまして、中には対立をあおることが目的になっているかのような記事もあります。それはある意味、建前のメディアでない週刊誌や夕刊紙の独壇場です。例えば新大久保でやっているデモの中で、ヘイトスピーチで聞くにたえないことを言っていても、新聞はあまり報じません。それは別に臭いものにふたをしているわけではなくて、書くことが、差別や対立をあおるだけの結果になりかねないと危惧するからです。一種のアナウンス効果です。

 それから、鉄板ネタ以外の、今年の週刊誌のトレンドで言いますと「あまちゃん」でした。「あまちゃん」がなぜ受けたかというと、被災地が舞台だったということで、もちろん被災地応援という感覚もありましたが、もう1つは、世代がきれいに3世代にまたがっていたからです。おばあちゃんに肩入れする人もいたし、私はキョンキョンと同じ世代なので、キョンキョンに肩入れしましたし、それから、能年玲奈ちゃんたちに肩入れした人たちもいたわけです。そして、ドラマのモデルがAKBで、AKBには自分もスターになれるかもしれないという憧れがあるわけです。ある日、突然、普通の女の子がジャンケンで勝っただけで有名になるみたいなところですね。「あまちゃん」はその世代にも受けたわけです。宮藤勘九郎さんはそこがうまかったと思います。「あまちゃん」の隠し味は80年代でした。80年代には、今の40歳以上はみんな何か感じるんです。バブル前、日本が一番明るかった時代かもしれません。「ザ・ベストテン」というだけで何か像が浮かんでくる世代で、そのパロディとしてもおもしろかった。とにかく「あまちゃん」をやれば売れるという時期がありまして、本当に週刊誌は助けていただきました。

  その次に出てきたのがTBSの「半沢直樹」です。ちょうど銀行でいろいろ事件が起きましたから、週刊誌は「あそこには半沢がいなかった」と書いたわけです。部下が役員に土下座をさせたら普通は飛ばされますし、そもそもそんなことはあり得ないんですが、あのカタルシスとでも言いましょうか、それが受けて、今年の後半は土下座ブームが明らかにありました。

 あと、アイスクリームの冷凍ケースに入ったりした、バカなネット投稿騒ぎが続きました。本当に懲りないというか、これがさっき言ったアナウンス効果で、メディアが取り上げるとやるんです。分別のある大人なら、記事を読んでこんなことをしてはいけないと思うのですけれども、違うんですね。受けるから俺もやろうと思うんです。だから、新聞はこういうのはあまり取り上げませんが、雑誌は「バカ者」「もうやめろ」と言いながらも載せるのです。私は24年間新聞記者をやってきて、去年の4月に初めて雑誌に移りましたが、同じメディアで、しかも同じ会社の中にあってこんなに違うのかと思いました。

 週刊誌の作り方は新聞と決定的に違います。新聞だと全国津々浦々、それから海外の特派員も含めて世界中から原稿が届いて、その後に各部のデスクが集まって、見出しはどうしよう、トップは何にしようと決めるんですが、週刊誌は毎週、編集会議があって、そこで編集長が方針とおおよその見出しを決めて、これでやろうと言って動き出します。だから週刊誌によってカラーがはっきり出ます。「みのもんた 許さない」という書き方をするところと、「そんなに悪い?」という書き方をするところとがあるわけです。

 それから、新聞は日刊なので、その日に起こったことを翌日載せます。週刊誌は前の週にあったことをダイジェスト的に取り上げるわけですが、それでもニュースの賞味期限がものすごく短くなりました。何か事が起こると、ネットも含めて情報がワーッと出ますから、3日ぐらいで消費し尽くしてしまうんです。例えば三鷹の女子高生のストーカー事件もあんなに騒いだのに、もう全然出てきませんし、福岡の病院が焼けてお年寄りが10人亡くなりましたが、それもいつの話ですかみたいになっています。ついこの前のことなのに、です。

 その結果、記事の中で「事件」の相対的な地位が下がってきたように感じます。昔はグリコ森永事件があったり、オウムがあったり、もっと前で言うと3億円事件があったりして、毎年、時効まであと何年とか言っていましたけれども、今は事件の賞味期限が短くなって、例えばもし今日2人殺されたという事件があったとしても、多分、来週発売の週刊誌には載せないでしょう。発売日までにテレビのワイドショーが繰り返し取り上げますし、ネット上にもさまざまな書き込みが現れる。読者の皆さんも、お腹いっぱい、つらい話はもういいとなりがちです。特に年配の方の多くは、生きる希望が湧くような記事をもっと載せてくれとおっしゃいます。

 政治はもめている時はおもしろいけれども、今みたいに安定政権になると、国会の論戦は低調ですから、週刊誌も興味が湧かないんです。むしろ、例えば朝鮮総連のビルをモンゴル企業が買ったけれども裏で動いているのは誰かといった、そういう訳の分からないところに飛びつきます。世の中の方々の下世話な興味の尽きないところで、かつ想像力がかき立てられるところでないと売れません。

 もう1つ鉄板なのは芸能ネタです。今年、藤圭子さんが自殺された時には全誌トップ記事になりました。しかも翌週、翌々週ぐらいまで載りました。これは総合週刊誌の読者層が藤圭子さんに思い入れがあるということと、何より藤さんご本人に書くべき「物語」がたくさんあったことが大きい。例えばAKBの何とかちゃんがお泊まりしてエッチしちゃったといっても、彼女に物語がないから1回書いたら終わりです。だけど、藤圭子さんが自殺したというと、娘さんのヒカルさんのこと、瞽女(ごぜ)だったと言われているお母さんのこと、流しの時代の苦労や二度の結婚・離婚歴など、小説よりすごい物語がある。週刊誌ファンはそこが好きだから読むんです。

 最近は表紙が誰かというのも大事で、もちろんジャニーズは鉄板で、特に嵐です。そして、意外に売れるのは氷川きよしさんです。3~4万円のディナーショーのチケットが売れる人、ドームでコンサートができる人を表紙にすると、動員力があるから売れると言われていますが、新聞記者の時は表紙をどうつくるかなんて全く考えていませんでした。表紙の大切さを知ったのも、週刊誌の世界に来てからです

 今年、2020年の五輪が東京に決まりましたが、正直、オリンピックに対してこんなに空気が変わるとは思いませんでした。当初は反対が多くて結構みんな冷めていたのに、東京に決まった瞬間から、「トウキョウ」というあの瞬間から突然空気が変わりました。今、いろいろなところであの発表のパロディが流行っていて、言いにくい人事の時に「オシャマンベ」とか「キュウシュウ」とか言ってやっているらしいんですが、パロディが生まれるというのは、元がものすごく周知されているということです。

 五輪が東京に決まった瞬間、みんなが「私は最初から応援していました」というふうに変わったのは、1964年の記憶があるからです。最近、いろいろな週刊誌が「2020年まで、あと7年頑張って生きよう」という特集をやっています。私の行きつけの根津の飲み屋のおばちゃんは今78歳ですが、1964年の五輪の前の年に旦那さんが会社の上司とけんかして、飛ばされて北海道に行ったばかりに五輪をテレビでしか見られなかった。札幌五輪の前の年に呼び戻されたので、札幌五輪もテレビでしか見られなかった。だから、何としてもあと7年生きて東京五輪を見るんだと言っています。マラソンは、東京マラソンのコースだと多分、浅草とか銀座を走るので、それを応援したいというわけです。週刊誌は今回改めて1964年の時の五輪の特集をやりましたが、みんなが懐かしいということで売れました。ですから、やはり物語のないものは売れないんです。

 山崎豊子さんが亡くなった時も売れました。それは山崎豊子さんが書いてこられたものがあるからです。『白い巨塔』にはまった人もいるし、いや、自分は『大地の子』だとか、人それぞれに思い入れがあるので、こういうものは売れるんです。山崎豊子さんの本も過去にさかのぼって売れています。毎日新聞のOBだったのでうちにはいっぱい資料があって、彼女の特集をさせていただいたら本当に売れて、先輩に感謝しています。

 最後に改めて今年1年を振り返ると、ニュースの賞味期限は本当に短いなと思います。例えば大阪の高校のバスケットボール部で体罰があって自殺した事件は今年の話ですけれども、もう遠い昔のことのようです。あの直後に女子柔道の体罰の告発があって、特集を組んだのが2月ぐらいです。

 その後どんなことがあったかというと、うちの3月17日号のトップの見出しは「黒田日銀総裁で始まる資産バブル」でした。その前からとにかくアベノミクスで、週刊誌は今株を買え、今株を買えとあおっていて、本当に買った人はもうけました。「宝島」という雑誌が「どの週刊誌が紹介した株が一番上がったか」という特集をやったところ、うちが1位でした。担当した記者は、あれだけ紹介しておいて自分は買わなかったそうですが、去年12月からうちの記事を100%信じて仮に1,000万円運用していたら、多分、億になっていました。アベノミクスでは、お金持ちのお金がさらに増えたのです。だから、銀座のデパートで1,000万円の時計が売れましたし、フェラーリも売れました。

 これは「朝ズバッ!」に一緒に出ている三屋裕子さんがおっしゃっていたんですが、今もし湾岸にマンションを持っていたら、絶対もうかるから五輪の選手に貸しなさいと。三屋さんがロス五輪に行った時は、選手村が遠かったのでコンドミニアムを支援企業が借り上げて、レギュラーは全部そっちに行って、選手村はトレーナーとか外側の人たちが借りていたそうです。お金を持っているスポーツ団体は、ホテルとかマンションを借り上げて選手村に入らないらしいので、もしあちら方面にマンション等を持っていらっしゃったら、そういうもうけ方もあると思います。

 週刊誌の前半戦で言いますと、「体罰」「アベノミクス」「株」ですが、もう1つ、これは去年からそうなんですけれども、ちょっと下品な話をしますと、70歳からのセックスについての特集を「週刊現代」と「週刊ポスト」が毎週毎週やったところ、これが売れたらしいんです。某週刊誌の編集長と飲んだ時に、「頑張ってスクープを打っても、それより『70歳でも20歳とできる』と書いたほうが売れるなんて残念だ」と言っていました。

 一時期、週刊誌は以前ほどエッチネタでは売れないと言われた頃がありました。ネットに性が氾濫しているので別に週刊誌を見なくていいやということで、かつて若者向けのヌード写真やエッチネタで売っていた雑誌は低迷しました。それが、中高年をターゲットにしてよみがえったのです。女性の方には申しわけない話ですが、「週刊現代」と「週刊ポスト」が一時争って2カ月ぐらい女性器特集をやりました。これはさっき言った週刊誌の課題である年齢層を下げるという意味合いもあってやったらしいのですが、実際には、この号を突出して買っておられたのが60代男性だったそうです。もちろんそのような特集は「週刊文春」も「週刊新潮」もやらないし、新聞社系もやりませんが、それが売れたということも事実として知っておいてください。ちなみに、うちは私の方針で近いうちに「60歳を過ぎたら、もうしなくていいじゃない」という特集をやります(笑)。

 もう1つ今年のトピックとして、これも遠い昔みたいのことのようですけれども、7月に参院選がありました。国政選挙がある時、週刊誌の重立ったところは1誌当たり2回ぐらい議席予測をやりまして、これは必ず売れると言われていたのですが、今度の参院選では全く売れませんでした。週刊誌の歴史上、議席予測をやって売れなかった初めての国政選挙でした。だから各誌とも1回しかやっていません。最初から勝負が見えていたので期待感がなくて、それで売れなかったのが理由ですが、その直前の都議選が模擬試験のようなものになって、本番の試験結果が分かってしまったということもあると思います。

 そして、もう1つ今年のトレンドだったのはブラック企業です。週刊誌でブラック企業の特集をやってなぜ売れたかというと、これは親御さんが子どもたちの就職先を考えたり、自分たちは終身雇用でちゃんと年金ももらっているのに、若い人たちはかわいそうにという単純な同情からだと思います。うちでも特集をやって、「ブラックと言われている企業」を書きましたが、これで某大手企業の幹部の方から抗議されました。

 そういう暗い話の中で9月22日に五輪の東京開催が決定して、少し明るくなったわけですが、これから来年にかけていろいろなことが起こりそうな気がします。これから週刊誌が騒ぐのは食品偽装です。なぜかというと、食品というのは物語があるから多角的に書けるんです。回転寿司にしても、みんな実は、この値段でできるわけがないと思っているわけです。有名なホテルでも、4,000~5,000円でランチ食べ放題をやっていますが、それで利益を出していこうというわけですから、偽装問題が発覚すれば、「やっぱりね」と思うことでしょう。そうすると、帝国ホテルですらやっていたのだから、このフレッシュジュースは本当にフレッシュなのかと、みんな疑い始めます。ご存じだと思いますけれども、「信州そば」というのは信州を経由したら「信州そば」だし、国産ワサビというのは、国内のどこかを一旦経れば国産ワサビになるのです。TPPの問題と絡んでくると、多分、JAS法とか景品表示法を変えるという動きと結び付いてくると思いますが、今はあまりにもグレーなので、結び付けないといけないでしょう。そして、TPPが通り関税が下がっていろいろなものが入ってくるようになると、例えば遺伝子組み替えの小麦が入ってくる可能性があります。そうしたときに、分かるような仕組みをつくっておかなければいけません。そういう意味で言うと、食品偽装はいいトピックだったと思います。だから、しばらくは追いかけようと思っています。

 この1年、何があったか見ていると、1年が早くて本当に時間の感覚がおかしくなってしまいます。東横線が渋谷駅の地下に入ったのは3月でした。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えて破壊措置命令が出て、迎撃ミサイルが置かれたのが4月でしたが、これは7月に撤去されています。それから、カネボウ化粧品の事件は発生してから3カ月しかたっていません。皮肉だなと思ったのは、某銀行さんがワンバンク化完了になったのが7月で、そんなにたたない時期に事件が起こりました。四万十川で史上最高気温を記録したとか、7月には山口と島根で豪雨があったとか、夏が暑かったことも、もう忘れています。

 1年間の週刊誌の見出しを引っ張り出してみると、振り返るということも大事だなと思いました。今日は私より先輩の方も結構いらっしゃるようですが、つくづく思うのは、50歳を過ぎてから1年が何でこんなに早いんだろうということです。日刊紙から週刊誌に来てから1週単位で動いているものですから、また短く感じるんです。今年も大事なことがいっぱいありました。体罰のこと、安倍バブルのこと、参院選のこと、ブラック企業のことという具合に、情報があふれて返っているので追われている感がすごくありますが、発信する側がそれを忘れてはいけないと思っています。

 売らんかなというのは、週刊誌ではもちろん大事というか、それがないと経営が成り立たないわけですけれども、興味本位に走らず、「サンデー毎日」はとにかく役に立とうということと、読んだ方に何か得をしてもらおうということを考えています。今週号では「スマホで健康管理」という特集をやっているのですけれども、実際にライターさんがやったところ無理をせずに半年で6kg痩せたということを紹介しています。役に立って、読んでよかったと思われる雑誌づくりというものを、新聞社系の週刊誌は求められているのかなと思っています。ですから、1週間のサイクルの中で読んでいただけると、何となく流れが入っていくかと思います。

 実は私も、週刊誌をつくっていても赤ペンを持ってばあっと読むだけで、ゆっくり読めたことがありません。他の週刊誌も読まなければいけないし、電話はかかってくるし、人と会わなければいけないし、作家さんは締め切りを守らないので、ずっと追われている感がありますけれども、週に1回ぐらい立ち止まっていろいろなことを考える時間をつくろうと思っています。

 これは宣伝ですが、今、「サンデー毎日」では「のぞみ」という漫画を連載しています。昔ものすごく売れた「家裁の人」という漫画があるのですが、その原作者の毛利甚八さんがもう一回漫画を描きたいとおっしゃったことをきっかけに、私と一緒に盛り上がって始めました。舞台は、大きなスーパーが出てきてさびれてしまった地方都市の商店街です。「のぞみ」というのは主人公の名前で、旦那さんを亡くした小料理屋のおかみさんが店を立て直していくのと、商店街を立て直していくという2つの軸で回っています。出てくる料理については、NHKの「きょうの料理」に出演している松田美智子さんが「Takeru」というペンネームで料理監修をしてくださっています。私と原作者と漫画家さんが必ず1カ月に1回、実際につくって、それを漫画にしています。後ろにちゃんとしたレシピが出ていまして、子どもさんが巣立った後に夫婦二人になったご家庭や、お酒がちょっとお好きな方が簡単につくれて、安くておいしいメニューになっています。

 もう1つ宣伝があります。今日は会社勤めの方もかなりお見えのようですが、今、経営者といえば、JALの再興以降、もう一回、稲盛さんのブームが来ていて、サンマーク出版の本が百何十万部売れているそうです。稲盛さんは実は「燃える闘魂」ということをアントニオ猪木より先に言っておられます。そして、今も言っておられるのは、うつむくなということです。彼は戦後、起業されましたが、高度経済成長期以降をつくってきた、あの日本の心を取り戻そうということも言っています。これはある意味、当たり前のことですが、元気が出るというので、いろいろなところで引っ張りだこになっています。弊社からついこの間出た『燃える闘魂』という本を何冊か持ってきましたので、経営を考えてみようかなと思われている方がいらっしゃったら、読んでいただけると幸いです。

 本当に取りとめのない話で、最後は宣伝までさせていただいて申しわけございません。毎日新聞と「サンデー毎日」をこれからもぜひよろしくお願いします。ありがとうございました。(拍手)

(了)