2014年2月講座

「千葉経済の展望」

千葉商工会議所会頭
石井 俊昭 氏

 

 

  先月、支局長に一杯ごちそうしていただきました。その時に、「ちょっと何か話していただけませんか」という話になって、今日、ここに来ることになりました。そのときに「何という題にしますか」と聞かれて、お酒を飲んでいたこともありまして「無題」と言ったのですが、新聞に「経済の分析」とように書かれてしまいました。

 実は、金融・経済・景気というのは、聞いているほうは一番おもしろくない話なんですね。それから、経済の話というのは3分ぐらいあれば終わってしまいます。「よくなる」とか「今年はだめだ」とか、結論はそんなものですから、ちょっと困ったなと思っています。会場を見ると、みんな知っている方ばかりなんですね。前列にいらっしゃる安田敬一さんは、たしか11年先輩です。それから、一番後ろには若梅さんがいらっしゃいます。若梅さんは、10年ぐらい前の毎日新聞の千葉支局長だったと思います。彼とは、小・中・高ずっと同級生なんです。彼が千葉支局に来たときに、僕は広報担当だったものですから、大変よく付き合っていただきました。そんなわけで、今日は知っている方が多くて非常に話しづらいのですが、与えられた時間でお話をさせていただきたいと思います。

 まず、経済とか景気を見る場合に、普段僕が一番大事だと思っていることは、歴史観を持つということであります。現在の世界の経済というのは、過去の歴史の延長上につくられているわけですから、これを今のことだけを取り上げて解説をすると、非常に断片的になってしまいます。ですから、長いスパンでまず歴史的に物を見たほうがいいと思います。

 ここでちょっと余談に入りますけれども、僕は1週間に一遍、お客様と交換した名刺を整理するようにしています。名刺は机に置いてありまして、1週間でかなりたまります。そして、整理するのですが8割の方は覚えてないんですね。これは大分ぼけたなということで、もともと歴史が好きだったものですから、歴史の年代を覚えることを始めました。その時、自分の好きな歴史は何だろうかと考えたところ、まず一生懸命読んだのは中国の『三国志』でした。

 例えば『三国志』の例で言いますと、皆さんご存じのように、魏、呉、蜀の三国の戦いですね。曹操、劉備玄徳、孫権という武将が出てくるわけですけれども、物語は紀元後184年の黄巾の乱から始まります。一番最後に滅びたのは呉だと思います。けれども、それまで約100年間のほんの短い歴史なんですね。その短い歴史の中に、登場人物は世界一多いと言われています。5,000人という人もいますし、3,000人という人もいますが、これは確認したことがないからわかりません。日本では、吉川英治が書いた『三国志』が一番有名で、これは皆さんが読んでいるところだと思います。

 実は、この三国の歴史というのは、正史と演義がありまして、『三国志正史』というのは三国の歴史が終わった100年後ぐらいに、要するに、280年代に三国志の歴史がなくなってすぐ当時の歴史家が『三国志正史』を書き始めているのです。これは非常に難しくて、訳したものを読んでもわかりません。そして、日本で言うと足利時代になるのですか、中国で言うと多分、明の時代だと思いますが、1000年後に『三国志演義』というのが書かれています。これは物語風に書かれていまして、日本に伝わってきて、それを吉川英治がああいう立派な小説にしたということです。

 さて、経済はどうなるかということですけれども、「経済も歴史から考えよう」というのが僕のテーマであります。特に戦後の経済を考える場合には、戦後の経済史を改めて勉強する必要があるような気がしています。

 どういうことかといいますと、理由は2つあります。1つは、我々は戦後の経済史をあまり正確には理解していないんですね。それは、自分自身が生きてきた時代だからです。話を聞いて、「ああ、あのときあれがあった」というふうに、出来ごとがすぐわかるので、改めて勉強しようとはしないんです。

 もう1つは、これは学校の歴史の先生に聞いたのですが、高等学校の教育では、歴史を第二次世界大戦が始まるところまで教えると大体1年が終わってしまうので、戦後史はあまり教えないそうです。結果的に、戦後史は大学受験にはあまり出ないんですね。ですから、戦後の歴史を我々はあまり知らないのです。従って、その辺から勉強して、経済に入っていったらいいんじゃないかなと思います。

 日本の経済の流れを見ると、それぞれの時代、時代にターニングポイントみたいなものがあったはずなんですけれども、僕は、それは昭和39年の東京オリンピックだったと思います。これが日本の経済、政治を含めた進路を大きく変えた、1つのターニングポイントになっているのではないかと思います。

 ちょっと景気の上で振り返ってみたいと思いますが、終戦後すぐ始まったのが、神武景気というものです。これを知っている人はあまりいません。それから、岩戸景気というのがありました。それからその次が、いざなぎ景気というのがありました。このいざなぎ景気というのが、実は昭和39年のオリンピックのときから始まっているのです。昭和39年というと、私は大学4年生でして、運動部だったものですから、代々木の体育館に詰めてオリンピックを手伝ったことがあります。ですから、大変懐かしいんですけれども、ご存じのように新幹線ができて、カラーテレビができてということで、日本が大発展した年が昭和39年なんですね。

 その翌年は、オリンピックの後で不景気になりました。大体、景気がパアッと上がるとそのあと落ちるんですね。ですけれども、昭和42年、多分そのときの総理は佐藤栄作さんだったと思いますが、日本はドイツを抜いてGDPが世界で第2位になりました。

 景気がいい、悪いというときに、新聞なんかではGDP比どうのという書き方をします。ですから、GDPが中心になると思いますので、それでお聞きいただきたいと思いますが、その後、列島改造ブームというのがありました。当時は田中角栄総理ですね。オイルショックへとつながっていくわけですけれども、これが昭和48年です。

 次いで昭和の後半に入って、バブルになりました。実は、バブル景気が終わったと言われているのが平成2年なんですが、皆さんはそのときバブルが終わったということにあまり気がついていないんです。多分、平成3年に入って、あれ、ちょっと変だなというふうに感じて、バブルが終焉したとみんな気がついたと思います。

 バブル景気は、69カ月という最高に長い間景気が継続しました。これが日本で一番景気が長く続いて、よかったと言われる時代です。しかし、あまりこれは記憶にないんですね。昭和39年のときはカラーテレビができたり、団地族というのが流行ったり、新幹線が走ったり、いろいろなことがありましたけれども、バブルのときは、要は物の値段が上がったということです。株価もものすごく上がって3万8,000円台になったと思いますけれども、何か新しいものが発明されたとかいった特徴的なものがあまりなかったのではないかと思います。そして、大体平成7年にこの景気が終わりました。

 終わった後で、今度はどうなったかというと、橋本龍太郎総理のときに、ビックバンということで、かなりの引き締めをやりました。たしか消費税も上げたはずです。それで景気が悪くなった。それがリーマン・ションショックにつながっていって、ずっと景気が悪い、悪いと今日まで来ているということなんですね。民主党政権になってさらに景気が悪くなって、それで今回の、いわゆるアベノミクスということになってきているわけです。

 さっき神武景気、岩戸景気、いざなぎ景気と言いましたが、何で景気がいいという実感を我々が持ったかというと、これはもうポイントは3つしかないんです。それは個人消費、設備投資、それから輸出が増えたということです。ジェトロ(日本貿易振興機構)という組織をご存じですよね。ジェトロは戦後、半分以上は海外に物を売ることが仕事でしたが、最近はちょっと変わってきて、ここ10年ぐらいは、どちらかというと輸入を増やそうというような動きが主な仕事になっています。そのように、歴史の中でそれぞれの役割が変わってきています。

 経済とか景気を見る場合に、歴史を勉強しようというのが1つ目ということで、戦後の経済の歴史をちょっと振り返ってみましたが、2つ目は、外から日本を見ようということです。では、どういうふうに外から日本を見たらいいのかというと、これは適当に見てよろしいかと思います。それぞれの経験の中でお考えになったらいいと思います。

 毎日企業人大学が海外視察を始めたのは、たしかもう10年以上前ですね。多分、僕が副頭取になったときだったと思いますが、団長をやってくれと頼まれました。そのときに若梅氏に「石井はうちの団長をやるまでになったのか」と言われたことを、いまだに覚えていますが、要するに、世界から日本を見たときに、日本という国は良く見えるんです。中にいては、なかなかわからないんですね。

 これは私の経験なんですけれども、平成元年に私はニューヨークの支店長をやっていました。それで日本へ帰ってきたら、アジアに行ったことがないということに気がついたんですね。中国にも行ったことがないんです。これはまいったなと思って、まず最初に、全くプライベートで5月の連休なんかを使って、上海だとか北京だとか、そういうところに行き始めました。それからその後で、毎日企業人大学で海外視察をやろうという話になったので、すぐ乗りました。10カ国以上行ったかなと思います。行くとやっぱり、日本っていい国だなという認識になるんです。そういう意味でも、海外から日本を見るということが非常に大事だと思います。

 今、オリンピックがブームです。2020年に東京オリンピックが開催されますけれども、千葉県にどんな影響が出るんだろうかというふうに考えてみました。いっぱい影響はあるでしょうけれども、大きく分けると2つぐらいでいいのかなと思っています。

 1つは、企業の立地です。既にもう茂原あたりにはかなり企業が立地しています。それから、東金は物流関係がありますから、そういう施設が集積してくるのではないかと思いますが、これは成田空港とアクアラインといったところのインフラの整備というのが大前提になります。

 14年ぐらい前にシドニーオリンピックがありました。そのときに僕もシドニーへ行きました。けれども、思い出してみますと、オリンピックの競技を観に行っているので、あまり遠いところまで出向いて観光はしませんでした。オリンピックの主催者から券をもらって競技を観に行きます。その合間にちょっとその辺の観光をするんですね。例えばシドニーから北のグレートバリアリーフへは5時間ぐらいかかるわけです。西のインド洋のほうに行くと、やっぱり5時間ぐらいかかります。だから、そういうところは行かないで大体シドニーの周りに行くんです。

 さて、それでは2020年に東京オリンピックが開催されたときに、外国から来る観光客がどんな動きをするのかと考えましたら、多分ディズニーランドは間違いなくこれは行くでしょう。でも、千葉県にとってはそれだけでは困ります。もっと房総のほうに引っ張っていかなければなりません。そういう意味で、2つ目は外国の人たちが来た場合の観光だと思います。

 ここでちょっと観光の話をしますけれども、終戦直後の千葉県の人口は約200万人だったんですね。今は620万人ぐらいと思いますが、これだけ増えた主な要因は、昭和30年代に京葉工業地帯ができたことがまずあります。それから、東京への通勤者が非常に増えたことで、千葉県の人口は爆発的に増えました。そういう中で、千葉県の地場産業は何でしょうか。皆さん、ご存じだったら手を挙げていただけますか──実は地場産業がないんです。千葉というのは公共工事で潤ってきた県なんですね。だから、本当の地場産業がない。ですから、今度の東京オリンピックまであと6年ぐらいありますから、それまでに地場産業をつくらなければいけません。

 それは何かというと、やっぱり千葉は観光だと思います。ここのところ、いろいろなところへ観光の勉強に行っています。北海道に先月行きました。それから、先週は沖縄に行きました。行ってみると、「よく我が県においでいただきました」という気持ちが本当に伝わってきます。沖縄は、観光しかないじゃないですか。鉄道が走ってなくて、あるのはモノレールぐらいなところでやっている。そういうことを考えたときに、千葉がこれから観光立県として生きていく上で、何をどうやっていくかという準備を、これから6年間でする必要があるのではないかと考えております。

 さて、それではだんだん現代に入ってまいりますが、アベノミクスですね。「三本の矢」ということを言っておりますが、その1つは超金融緩和です。2つ目は、いわゆる財政の問題なんですね。これには公共工事、それから財政再建の2つがありまして、公共工事には本当にお金を出しています。ですから、日本全体の景気がいいというのは、そこにあるわけです。要するに、金融を緩和してお金をいっぱい出して、それでばんばん工事をやることになれば、GDPは増えるに決まっています。でも、その次の財政再建には、手がついていません。それから、3つ目は成長戦略なんですが、これも実は、これという政策が出てないんですね。だから、先行きについてはちょっと怖いなという感じが個人的にはしています。

 今言った「三本の矢」というのはどういうことかというと、要するに、大幅に金融緩和をして円安にし、それで輸出を増やす。それから、製造業の国内設備を増加させる。それで国内需要を喚起して雇用を増やして、結果として景気の持続的拡大を図る。こういうのがアベノミクスの本質なんですね。でも、どうでしょうか。GDPなんかで見て確かに上がっているとわかるのは、大企業の輸出を中心とする自動車が端的なものですね。こういうものが引き上げているということです。

 さて、経済とか景気をどう見るかという話に戻りますが、3つ目は統計や数字を信用してはいけないということです。例えば統計学的手法により分析した結果、GDPは上がっていますというようなことがよく言われますが、統計学、学問と言われると、我々は正確なものと思いがちです。ところが、実はそうではないんです。統計学というのは入れる数字や項目によって結果が変わってくるので、そのまま信用しないほうがいいということです。

 それならば、ヒアリングを個々にやったほうがいいと思います。例えば最近の動きで言うと、幕張にイオンができました。大きな施設ができたわけですが、これが実際に千葉の物流関係にどういう影響があるかということは、なかなか数字に出てきません。そこで、大型店と言われるところ、例えばそごうだとか三越だとか、それからイトーヨーカドーとか、そういうところの店長さん方から直接ヒアリングをしたところ、大体が今のところあまり影響がないと言っています。千葉一の家具屋さんで、かねたや家具屋さんというのがあるんですけれども、こちらは逆に絶好調だと言っています。2月、3月の売り上げがものすごく増えているそうです。これは多分、ほかの大型店もあまり変わらないと思いますが、要するにイオンの影響は今のところ出ていないということなんですね。ただし、消費税を上げた後の、いわゆる4-6月の景気がどう出るかが非常に怖いということを、皆さん異口同音に言っています。

 ですから、これから今年の経済を考えるときに、そこのところをよく見たほうがいいと思います。実は、金曜日に三村明夫さんという新日鉄の社長、会長をやった方とちょっとお話をしまして、僕が「三村さん、日本の景気をどういうふうに見ますか?」と質問しましたら、彼は「今年はプラスで終わるよ」と答えました。それで、やっぱり我々みたいに地域で中小企業を見ている目と、ああいう大きな新日本製鉄の経営者とは、ちょっと違うのかなという感じがしました。

 いろいろな機関でGDPが何%成長するという予測を出しています。政府の見通しは3.3%なんですね。これは名目ですけれども、去年が2.5%ですから、かなり上がると見込んでいるわけです。それから民間の有力企業20社ぐらいが、予測を出していまして、これが2.4%で、政府見通しよりも1.0%ぐらい低いんです。去年が2.3%でしたから、横ばいですけれども、それでもプラスにはなるというふうに一応見ています。

 千葉県内に限って言えば、景気が著しく上昇しているとは言いがたいというふうに思います。確かにゼネコンさんなんかの話を聞くと、発注がものすごく多くて、景気がいいというところも結構あります。だけど、結局人件費が高くなって材料費も高くなったら採算がとれないというようなことを言っていまして、この辺がこれからどう動いていくかは、よくわからないところです。ただ、いずれにしても4-6、4・5・6月の数字は注意してください。これが今年の鍵を握っていると思います。

 それから、ちょっと離れた話をしますが、去年の今ごろ何を騒いでいたかというと、もう覚えていないんですよね。実は、去年の3月に「金融円滑化法」が切れるということで、そうなると、中小企業の倒産が大量に出るというように言われました。千葉県で言うと、2,000社ぐらい倒産するという、オーバーな言い方もありました。ところが、実際には倒産していないんです。これは政府が手を打ったからで、どういうことかというと、金融円滑化法がなくな代わりに、金融庁と内閣府と経済産業省が絶対に中小企業を潰すなという施策をかなり強引にとったんですね。その結果、潰れていないということです。

 実はその影響を一番受けているのが金融機関です。銀行は皆様の取引先を、いい先だとか、よくない先だとかいうように分類しています。皆さんのところは、正常先と言われているところですが、その次に、正常先だけれどもちょっと注意しなさいよというところを、要注意先という分類をします。その次に、かつては要管理というのがありまして、この要管理が問題でした。要管理になると、金融庁の検査が入ります。銀行は、そういう指定を受けると引き当てをしなくてはいけません。ここがポイントなんです。

 大体、銀行の倒産率で引き当ては変わってくるのですね。例えばうちで言いますと、そのころは20%弱ぐらい引き当てたはずです。ということは、それまでのように3%の金利でお金を貸していたのではとても合わないわけで、単純に言えば、23%金利を取らないと合わないんですね。でも、高利貸しじゃないから、そんな金利は取れません。だから貸さないことになります。それが、今年の3月に金融円滑化法ができたら大変なことになるということで、要管理を8%ぐらいにしたはずです。20%ぐらいのところを8%ぐらいの引き当てでいいですよということになったわけです。このように、8%で我慢して、金融機関もうまく中小企業を潰さないようにやってくれよということで、今日まで来ているわけです。

 しかし、役所は当てにならないところが多くて、考え方を途中で変えてしまうんです。ですから、金融庁とか経済産業省がそう言っていても、今はいいけれども、しばらくすると多分もとどおり厳しく査定しようというようになると思います。そのときには倒産がだあっと出てくるはずですから、これは今から注意しておかなければいけないと思います。

 ちなみに、今、分類の話をしましたけれども、要管理の次にあるのが破綻懸念先です。要するに、もう危ない、破綻しそうな企業のことを破綻懸念先と言うんですね。これは今のところ、45%ぐらい引き当てをすることになっています。それから、その次が実質破綻先です。実質破綻先というのは、生きているけれども、もうじき破綻するんじゃないかなという企業のことを言います。この場合は、破綻したときの銀行に対するリスクが高過ぎるから、100%引き当てなさいということになっています。最後に、完全な破綻先というのがありますが、これも100%引き当てることになっています。

 このように、景気を考えるときには、大企業と中小企業とを分けて考えたほうがいいだろうと思います。大企業、特に輸出を中心とする大企業は非常にいいわけです。一方、中小企業はちょっと違う範疇だという見方をしたほうが、今はいいのではないかなと思います。
 いずれにしても、経済の見方というのは実はオーソドックスなものでして、誰でもこう見たらいいという見方があります。千葉県経済を考えるときにどういう順番で見ていけばよいかということですが、これは非常に簡単ですから知っておいてください。

 まず、世界経済の動向がどうなっているかというところから入ります。これは大体、経済評論家とか経済学者もそうなんですが、まずヨーロッパからということになります。去年の今ごろのヨーロッパはどうだったかといいますと、PIIGS(ピッグス)という、いわゆるギリシャ、スペインの問題で大騒ぎしていていました。国が潰れるんじゃないかというような議論まであったわけですが、でも、実際は潰れませんでした。もう30年ぐらい前に、アルゼンチンが潰れるのではという話もありましたが、国が潰れたことはありません。国が潰れるのは、政治的な内紛によることのほうがはるかに多いわけで、国債をよその国にどんなにたくさん持ってもらっていても、国は倒産させないんです。

 ヨーロッパについては、今年はあまり大きな動きがないなような感じがしていますので、考えなくてもいいかもしれません。ただ、1つだけ挙げるとすると、それはドイツです。ドイツがどう動くかということは、ちょっとポイントになるかもしれません。ヨーロッパは、ドイツがほかの国をみんな助けているのです。特にギリシャは人口が1,100万人ぐらいしかいません。ドイツが約8,000万人ぐらいです。フランスが5,000万人ぐらいです。だから、ギリシャが、破綻したとしてもそんなに影響があるはずないんですけれども、ギリシャには特殊念書がありまして、周りの国のほとんどからお金を借りていましたから、そうした国が騒いでいるだけの話で、ギリシャは潰れません。

 それから、次に考えないといけないのはアメリカです。アメリカの経済がどうなるかということです。アメリカは、緩和政策を都ってきたのですけれども、それをちょっと締めてきているんですね。その影響が振興国に出てきて、振興国が少しおかしくなっているのが現在の状況です。

 アメリカはおもしろい国で、政治と経済がものすごく密接に関連しています。今年は中間選挙があるはずですが、過去の例を見ると、中間選挙の年はアメリカの景気が上向いているんです。今、オバマさんはえらい苦労をしていまして、3月の議会の予算が通らなかったとかいろいろありましたけれども、でも、何とか中間選挙を機会に乗り切るのではないかと思います。

 それから、他に考えなければいけないのはアジアです。アジアの振興国をどう見るかということだと思います。かつて、アジア通貨危機というのがあって、みんな気にしたこともありましたけれども、最近のアジアはどうなんでしょうか。僕は最近行っていないのですけれども、中国は大体7%台の経済成長率でいくと思いますから、そう変化はないと考えておいていいと思います。そのほかの小さな国、例えばタイとかがどう動くかということにも注目しておいていただきたいと思います。

 タイには、日本の自動車メーカーがものすごく出ています。ところが、タイには政治不安があります。政治に不安があると経済を麻痺させてしまいますから、そういう意味でも、アジアの振興国の動向は注目しなくてはなりません。それから、最近出てきているのですが、南アメリカの、いわゆる振興国と言っていいような国々も、ちょっとおかしくなっているんですね。これはアメリカの影響を受けているんですけれども、この辺も注目しておきたいと思います。

 今、オーソドックスな経済の見方のお話をいたしましたが、そういうものを分析したうえで、さて、それでは日本の経済はどうなるのかといいますと、先ほど申し上げましたように、大企業で育ってきた人たちは、今年の経済成長率はかなりのプラスになるという意見のようです。一方、我々みたいに地域経済とか中小企業を担当しているところは、そういってもそのようにはいかないという意見ですから、結論的には2つに分かれるはずです。要は、これは皆さんの考え方次第ということになります。

 では、誰が言うことを採用すればいいのかというと、いろんな学者がいろんなことを言ってますが、自分と考え方の合う評論家とか経済学者を決めておいたらいいと思います。ちなみに、私が決めているのはリチャード・クーという評論家です。彼は、今は野村證券に所属していると思いますが、台湾人です。神戸で生まれたアメリカへ留学してアメリカで金融を勉強して、連邦政府に入って南米の経済危機を実務的にやって、それから評論家になった人で、政治と経済とリンクしたレポートをよく出しています。私はリチャード・クーを一応自分の先生だと思っていまして、彼が毎週出している経済レポートを読むようにしております。

 最後に、僕が昔から座右の銘みたいにしていることがありますので、その話を若干いたします。

 さっき中国の『三国志』の話をしました。孔子様は論語で有名ですけれども、孔子が活躍した年代というのは、紀元前5世紀ぐらいです。紀元前5世紀の日本はどうだったかというと、まだ弥生式時代に入る前ぐらいですか。稲作が始まったぐらいの感じだと思いますが、そのころに中国では孔子様みたいな人が出て、全国を歩いていろいろ教えを広げてていたのですね。だから、僕はその当時の中国人をすごく尊敬しています。

 実は、自分の机の上に『論語』の本を必ず置いてあります。ちょっと『論語』を読んでみようかなという人は、全然難しくないので読んでみてください。昭和30年代の後半に岩波新書から出た『論語』という本があります。これには、原文と日本語訳が載っています。僕は原文はわかりませんから、日本文に訳したものから読み始めます。解説も載っていますので、わかりやすいでしょう。時間があるときにぱらぱらっと見ると、いい言葉があるなということに気がつくと思いますので、興味がある方はぜひ読んでみたらどうかなと思います。

 それから、孔子はこういうことを言っています。弟子に子貢という人がいるのですけれども、子貢に言った言葉で、「天何をか言うや、四時行われ百物生ず。」というのがあります。わかりづらいのですが、要するに、神様は我々に何も言わないじゃないか、黙っているじゃないかと。四時というのは、いわゆる四季で季節が回って、そこでいろいろ万物が成長しているじゃないかと。要するに、あまり不満を口に出さないで、そこはじっとこらえて、いいときもあるというふうに過ごすほうがいいぞという教えだと、僕は理解しています。

 それから、松下幸之助が言っていた言葉で僕も好きなんですが、「商売とは」という話で、「天下万人を幸せにすること。したがって、仕事は楽しいこと。会社は生きがいの場であること。」と言っています。経営者の方にそういう場を是非つくっていただきたいと思います。特に、会社はということですから、株主とお客さんと従業員ですね。地域で仕事をする場合はプラス地域社会になりますが、こういった関連をどれだけ強めていくかということが非常に大事なことだと思います。

 もう1つ、今度は織田信長の話に飛びますけれども、桶狭間の戦いで北条氏を破ったんですね。雨の中で織田信長の兵力は何分の1しかなかったのですが、そのときに彼が言ったと言われている言葉があります。「天の時」「地の利」「人の和」このうち、天の時、地の利は人為的にはどうにもならないことです。でも、人の和はつくれるということです。実際に信長が言ったのかどうかはわかりませんが、確かにそうなんですね。会社経営に限らず他のことでも、苦しいときに、やっぱり最後に頼りになるのは人間です。ですから、人の和がなくなった会社は、もうそれで終わりですね。国も同じだと思います。今、ウクライナがわいわい騒いでいますけれども、ああいう状態になってしまうと、やっぱり国を滅ぼすことになり、会社にも通じているんだなというふうに思います。

 それから、これも『論語』の中にあるのですが、「亢龍(こうりゅう)悔いあり」という言葉があります。これは簡単ですから覚えてください。亢龍というのは、龍が天に昇っていくような状況を思い浮かべてください。要するに、人間が絶頂期のときのことを亢龍と言うんです。そして、このときが悔いありというのは、要するに、一番高いところへ昇っていったときが、人間は一番危ないときなんだと。だから、いいときにこそ、これでいいのかと自制することが大事だという意味です。

 それからもう1つは、これも『論語』からですけれども、「子曰く、其の身正しければ、令せずして行わる。其の身正しからざれば、令すといえども従わず。」という言葉があります。要するにこれは、上の人は身を正しくやっていなければ、何を言ったって始まらないということです。いつもみんながどう自分の言うことを聞いてくれているかということを常に頭の中に入れておきなさい。そういうことで組織なり会社なりを運営することが大事なんだということだと思います。

 勝手なことを申し上げましたが、そろそろ時間になりました。ご清聴ありがとうございました。

(了)