2014年10月講座
「身も心も磨く ~私を変えた宝塚」
元宝塚歌劇団星組
天霧 真世 氏
私は、ダイエットアドバイザー、ダイエットインストラクターとして宝塚と東京と名古屋の3カ所で「マヨササイズ」というダイエットエクササイズを教えています。これは宝塚の現役時代に舞台に立つ前のウォーミングアップとして、みんなで楽しく体をほぐしていたものを一般の方向けに改良したものですが、きょうは宝塚のお話と絡めて語っていきたいと思います。宝塚を観たことがある人はいらっしゃいますか。宝塚には、テレビで活躍されている真矢みきさん、天海祐希さん、檀れいさんなど、素晴らしい先輩がたくさんいます。歴史も長くて、今年は100周年ということで大運動会をやるなど、舞台だけではなくてイベントもたくさん開催しています。
きょうは、お話の合間にエクササイズを入れていきますので、体をほぐしながら聞いてもらいたいと思います。「マヨササイズ」は呼吸を行いながら楽しくやるものなので、まず呼吸法から行きたいと思います。呼吸にはリラックス効果があり、体の中の毒素を外に出していきます。体の中の空気を全部入れ替える意識を持てるように、意識を改善していきたいと思います。鼻から思いっきり息を吸います。吸ったときに体の中の頭の先からつま先まで全部に空気が入って膨らんでいるイメージを頭に思い描いてください。そして、大きく口からフーッと吐きます。もう一度鼻から吸って、頭の中まで空気を入れます。そして、吐いて。リラックスして体を使っていきます。寝る前にこのように意識して呼吸をするだけでも安眠効果があり、体の中の悪いものを外に出してくれる効果もあります。
私は、16歳のときに宝塚に入りまして、2年間の学校生活を入れて15年間在籍しておりました。宝塚に入るにはどうしたらいいかというと、中学卒業の学年から高校卒業の学年までの4学年に受験資格があるんです。だから、チャンスは4回です。1回に受かる人数は40人と決まっていて、私のときは倍率が33倍でした。合格するには、何か芸事ができるとか美しいからということではなくて、運です。3次試験まであって、それを乗り越えた人だけがつかめる切符です。
そして、宝塚音楽学校に入学します。同期生40人はみんな年齢が違います。年齢は関係ありませんから、上級生でも年下の人がたくさんいます。2年の間に舞台人になるために必要な心がどんどん磨かれていきます。舞台に立つためにバレエ、ジャズダンス、日本舞踊、タップダンス、お茶、狂言、音楽史、声楽──声楽はいろんな分野を歌えないといけないのでクラシックとポピュラーに分かれるんですが、芸事のみの授業が朝から晩まであります。
1年目は予科生、2年目は本科生と言うんですけれども、予科生は、朝、授業の前に誰よりも早く行って、学校のお掃除をしなければいけないんです。宝塚のお掃除というのは結構有名で、与えられた一つの場所を1年間ずっと掃除し続けます。トイレ掃除だったら1年間トイレ掃除をする、講堂の鏡担当だったら1年間ひらすら鏡を磨き続けるというふうに、それぞれに与えられたところを掃除します。隅から隅までほこり一つありませんという状態を常に保っておかなければいけません。掃除が終わった後にレッスンをしてごみが出たときも、気づいたらすぐに拾わなければいけないんです。そういう気遣いがとても大事で、隅から隅まで美しくなるために訓練されていきます。
宝塚は規律がしっかりしていて、予科生と本科生の上下関係も厳しいです。ですから、本科生の言うことには絶対に従わなければなりません。でも、あとで劇団に入ったときにすごく役立って生かされることばかりなので、本当に勉強になりました。私は、宝塚は厳しいとは聞いていたので、芸事が厳しいのかと思っていたんです。もちろん芸事は厳しくて、実力を上げていくためには自分との勝負でしたけれども、それよりも上下関係の厳しさのほうがものすごくて、最初は人間不信になるんじゃないかと思うぐらい、びっくりすることがいっぱいありました。でも、後でその厳しさは愛情だと気づいてからは、上級生の方にも感謝できるようになりました。
予科生には決まり事が本当に多くて、言葉遣いや服装も全部決まっています。そして、「予科道」と言って予科生しか通ってはいけない道があるので、自由に歩くこともできません。歩くのも二列縦隊で、列を乱してはいけないんです。しかも6人以上で歩いてはいけないので、もし7人いたら、2・2・2で1人はちょっと離れて歩きます。学校内では本科生や上級生の方が歩かれるのに邪魔にならないように、必ず隅っこを歩きます。そして、手をあまり振ってはいけないので常に体側みたいな、本当に不思議な決まりがいっぱいあります。
髪形も決まっています。男役はショートカットで、髪の毛が1本でも乱れていたらいけないので、カチカチに固めます。娘役はお下げ、しかも前から見えてはいけないんです。おじぎしたときに前にダラーンと出てきてはいけないので、カチカチに固めて後ろに2本のお下げにして、前髪を下ろすのもだめなんです。私服も色は黒かグレーで、アレンジが効くようなデザインはだめです。ボタンを上まで締めて、地味なズボンやスカートに三つ折りソックス、お化粧もしてはいけない。そういう1年間を経て、タカラジェンヌというのはつくられていきます。
2年目は本科生になります。今度は新しく入ってきた予科生たちに、自分がしていたお掃除を伝授して受け継いでいきます。そして、予科生は上下関係の厳しさを知りつつ学んでいくというのが伝統です。本科生は、3年目に必ず宝塚歌劇団に入団しますので、自分の実力を上げる努力が必要なんです。授業はもちろん朝から晩までありますけれども、ひたすらレッスンに駆けずり回って、休みの日曜日にも朝から晩までレッスンを分刻みに入れて、すごく頑張りました。
宝塚では、入学してすぐ男役と娘役に必ず分かれますが、どちらの役やるかは自分で決めることができます。ただ、身長の低い子が男役をやりたいと言っても、舞台で男役と娘役が組んで踊る場面がいっぱいあるので、あまりにも小さい男役がいたら、組む娘役のほうが決まらなかったり、見た目にも影響しますので、大体身長で分かれていきます。このぐらいの身長だからこっちだろうみたいな感じで、自分で選び、男役、娘役が決まります。決まった後は、歌のレッスンも男役と娘役に分かれて、男役は発声法から低くなるように声帯を強く変えていって、娘役は裏声できれいな声が出る訓練をしていきます。
芸名も自分で決めます。これは本科生の夏休みの宿題で、夏休み明けに第2希望まで提出し、それが通るか通らないか判断されます。私の「天霧真世」という芸名も自分で考えました。芸名を決めるに当たって、本や雑誌を見たり、画数を調べたりして、しっくりくる名前を考えます。同期で同じ名前を提出してかぶることもありますけれども、漢字が違えばオーケーのときもあります。ただ、過去にある名前とフルネームが絶対にかぶってはいけないんです。下の名前が一緒なのはいいんですが、上級生の名前を調べてかぶった場合は、その方にご挨拶をしなければいけなくて、勝手につけることはできません。いろんなつてをたどってその人の耳に入らなければいけないので、誰かの知り合いから知り合いへという感じで伝えていただいて、了解をいただいて初めてつけることができます。芸名をつけるのも一苦労ですが、劇団の許可が下りたらその名前で劇団に入ります。
さて、ここでデスクワークの合間にやるだけで肩や腰が楽になるストレッチをやっていきたいと思います。体というのは自分でつくっていかなければいけませんので、意識して動かしてあげてください。手を組みます。上にグーッと背筋を伸ばします。そして、呼吸も使っていきます。息を鼻から吸って、大きく口で吐きながら、前にボールを抱えるイメージで背中を丸くして、おなかを凹ませて、フーッと思いっきり吐きます。もう一回、思いっきり吸って、伸びて、背筋をピーンと伸ばして、鼻から吸います。口から大きく全部吐きます。吐き切って、背中を丸くして、肩を前に出してください。肩を前に出して大きなボールを持つイメージでフーッと吐きます。もう一度、大きく吸って、頭の中まで空気を入れます。骨盤をずらすイメージで、思いっきり丸く、丸く、丸く、腰を伸ばします。大きく背筋を伸ばすとリラックス効果もあります。全身の力を使いますので、やってみてください。
次は、劇団の話をしたいと思います。宝塚には定年があって60歳までいられますので、貫祿のある役は、ある程度の年齢を重ねた方たちにお任せします。花組、月組、雪組、星組、宙組の5組と、専科という別枠があります。専科にはだいたい50~60歳の方たちがいらっしゃって、必要なときにいろんな組に行くことができます。舞台を何十年も踏んでいらっしゃって、実力も兼ね備えている素晴らしい方たちばかりです。初舞台で40人が一緒にロケット、足上げダンスをお披露目した後で配属が決められて、同期生40人が8人ずつ5組に分散されます。劇団に入って1年目は、研究科1年生になります。はるか上級生がたくさんいるので、さらに気遣いの世界で、今までは本科生のために一生懸命やっていたけれども、今度は全組の人たちに向けて気遣いを発信していかなければいけなくなります。最下級生の仕事を自ら全部やるのですが、そこで音楽学校での経験が生かされるわけです。
年齢は非公開で明かされないので、定年になるまでお互いに年齢がわかりません。60歳まで絶対にいないといけないわけではなくて、退団するきっかけも自分でつくれます。1年目でやめる人はあまりいませんが、舞台を踏んで、2年目、3年目で私にはちょっと厳しいなという判断をする人もいますし、もっと極めたいと思って続ける人もいます。外の舞台を踏んでみたいとか、芸能界に行きたいな、結婚したいなとか、それぞれの理由でいつでも自分でやめることができます。私は絶対に満足するまでいたいという思いがずっとあったので、「満足したからもういい」と思えるまで13年かかりました。13年目のときに、満足だ、幸せだという気持ちが一気に来たので、やめて卒業しましたが、それぞれの道を自分で決めて進んでいくことができます。
宝塚では女役とは言わずに娘役と言うんですが、女役もあります。女役は熟女的な感じの人たちのことを言うので、娘役とは別です。男役の場合、男の人ってどういう仕草なんだろうとか、どういう立ち方をするんだろう、どういう手回しをするんだろうというのをそれぞれ研究するんですが、普通の女の子がやるのでわからないことだらけです。だから、映画を観たり、俳優さんを観たり、いろいろ研究します。男の人から見たら、そんな男の人いるわけがないというような人を演じるんですけれども、それが女性の憧れる男性像なんです。こういう人がいたら素敵だなと思うような男の人を女の子が演じるから、すごくキザめいたり、椅子の座り方がカッコよかったり、手を組むときや背もたれするときも、やり過ぎぐらいが舞台に出たらちょうどよくて、女性のファンの方がたくさんいてくださいます。
私は男役だったので、15年間ずっとショートカットでスカートもはきませんでした。別に私生活に決まりがあるわけではないんですけれども、ファンの方には「男役の○○さん」みたいに舞台のイメージがあります。そのイメージを崩してはいけないので、私生活も男役でいないといけないんです。舞台では素敵な男役が、外ではスカートをはいて歩いているのを見たらショックを受けるだろうから、普段からスーツで、襟をちゃんと立ててネクタイをしてカッコいいというのを演じなければいけなかったんです。それが日常になるので癖が染みついて、歩くときも大股だったり、物を持つときもカッコよく持ってしまったり、やめてから私生活に影響があることがいっぱいありました。3年たってもいまだに出るので、今からやめていく同期も大変だろうなと思っています。たばこは吸わないんですが、たばこを吸う役も回ってくるので、いろんな映画を観て、カッコいい俳優さんの吸い方を研究しました。何もせずに舞台へ出るわけではなく、みんな苦労して、この役はどういう人がイメージに合うかなというふうに探して、見つけたらその人をひたすら見て研究します。宝塚は特殊なので、昔のDVDとかビデオを見て研究したりもしました。
そして、メイクの研究もしました。宝塚のメイクは特殊で、遠目から見ても大きな目を描いて、つけまつげをつけて大きく見せます。人によって顔が違うので、隣の人がきれいなメイクをしているなと思って自分も同じようにやってみたら全然違うということもあります。だから、自分に似たような顔の上級生に教えていただくとか、自分に似たような感じのブロマイド写真を手に入れて、それを見て研究しました。まつげも人によって見え方が違いますし、作品によって違ってきます。今は100均でもつけまつげを売っていますけれども、昔は舞台化粧用品みたいなところにしか売っていなかったので、自分に合うまつげを探しました。舞台では汗をすごくかくので、汗でつけまつげが取れてすぐだめになりますから、結構まめに変えないといけないんです。化粧も、普通のファンデーションじゃなくて、ドーランと言って濃いのを4層ぐらい重ねます。顔をほっそり見せる方法や目を大きく見せる方法など、いろいろあるので、自分のコンプレックスを隠すやり方をそれぞれで見つけて、研究してきれいになるために努力をしています。
では、ストレッチをもう一回やりましょう。今度は、デスクワークでできる腰痛改善法をやりたいと思います。椅子に座ったまま、片方のお尻を上にグッと上げてください。上げたときに体が傾かないように真っすぐのまま、ヒップだけグッと上げます。そして、そのまま上げているヒップのほうにちょっと傾けて、ウエストをキューッと縮めます。息を吸って、大きく吐きながら、ヒップと上半身を曲げます。骨盤を動かすだけでゆがみの改善になりますので、普段から揺らしてあげることが大事です。ヒップを上げて上半身をグーッと曲げてあげる。そして戻して吸って、もう一度、吐きながら自分でヒップを上げて、上半身を下げる。体がゆがむと骨盤のゆがみも発生します。むくみが出できたり血流が悪くなったりするので、骨盤回り、腰回りをしっかりやわらかく動かしてあげる。お尻で歩くような意識で揺らしてあげるというのがとても大事です。これは座りながらでもできますので、骨盤を常に動かしてあげることを意識してみてください。腰回りの筋肉がすごくやわらかくなって、血行もよくなって、足も軽くなっていきます。やわらかく、やわらかくしてあげる意識を持つと、どんどん体も足も楽になってきますので、皆さんも一度やってみてください。
もう1本やりましょう。椅子に座ったまま、体を思いっきり真横に向けます。椅子の背もたれを利用して、背もたれを持って、前の手が膝を持ちます。グーッと手で押して肩が真っすぐになるように、そのまま上半身だけをグーッとひねります。息をフーッと吐いて、もう一度、吸って、反対側にグーッと腰を思いっきりひねります。ヒップは動かないまま上半身だけ、肩が一直線のラインにつくようにグーッと押してあげます。思いっきり息を吸って、ウエストをひねって腰回りの筋肉をやわらかくしていきます。大した動きではありませんが、これだけで体がポカポカしてくると思います。思い出したときにやっていただけたら、ウエスト回り、腰回りのゆがみも治っていきます。
皆さんは肩が凝ると接骨院やマッサージに行かれると思います。もちろんそれでもほぐれて楽になったという感覚にはなりますが、また同じ体勢になると、凝りがどんどんたまっていきます。体を変えていかなければ凝りは改善できないので、自分で変えていくという気持ちを持ってストレッチする。やわらかくしていく努力をしていかないと、体は変わっていきません。ストレッチでほぐしたからといって、完治するわけではありませんが、ほぐしてからプラスしてストレッチを入れてあげると、早く改善していきます。自分で骨を意識して動かしてあげることによって骨の回りの筋肉を動かすので、体つきもどんどん変わっていくし、元気にもなります。
宝塚は女の園だから、ドロドロして怖いんじゃないかというイメージを持っておられる方もいると思うんですが、全然怖くありません。愛にあふれたすごくいいところです。そして、宝塚はファンの方がいるからこそ成り立っています。劇場とお稽古場は同じ建物内にあるんですけれども、そこに大体朝早く入って、夜遅く出ます。でも、ファンの方は入りの一瞬の間でも、お見送りしたいというだけで、時間を割いて来てくださるんです。入りのときには「行ってらっしゃい」と言って見送ってくださって、夜遅く、何時になるかわからないのに待っていてくれたり、そこからお仕事に行って、帰りに「お疲れさまでした」と言うだけのためにまた来てくださったり、とても愛情を持ってくださるので、本当にありがたいんです。
私にもファンの方がいてくださいました。入り待ち、出待ちというのもしてくださって、役がついた、台詞がついた、一歩でも中に入れたというときには、自分のことのように喜んでくださいました。私のために喜んでくれて、泣いてくれて、本当に愛情にあふれているんです。家族だからこそ捧げる愛情もありますが、血のつながりがなくても家族のように接してくれて、愛情を注いでくれる。私も人に対してこういう愛情を持って接することができたら、その人も私と同じような気持ちになってくださるだろう。うれしかったことは人にもしてあげよう。人にはこういうふうに接するといいんだということをファンの方からたくさん教えていただきました。
私は星組で育ったんですが、組子、上級生、下級生、そして同期生、1組に80人ぐらいいます。そこでもたくさんの愛情をもらいました。厳しい言葉ももちろんありますけれども、それは全部愛情でした。一人一人がよくなるために厳しい言葉も言ってくれるし、褒めてもくれる。一つの作品をつくってお客様にお見せするに当たって、その人がよくなるためにはどうしたらいいかを自分のことのように思う。自分が出ていない場面でも、出ている子たちに対して、もっとよくなるように髪形や衣装の着こなし方のアドバイスをして、愛情を持って接する。自分が勝ち上がりたいから放っておこうという気持ちは全くなくて、みんなでいいものをつく上げるために、お客様が喜んでくださるために、一人一人が愛情を持って接する。厳しい言葉も受け止めて、やってみて上級生にお伺いに行く。自分はよくなりたいし、そして人にもよくなってほしい。学年が上がれば上がるほどいろんな責任感が出てきて、役柄もどんどん重要なものになっていきます。自分もやらなきゃいけないことがたくさんある中で、下級生を育てるために見てくださって注意をしてくださるのは、すごく愛にあふれていて、とてもありがたいことでした。
でも、下級生がどんどん出ていって伸びていって、役がついていくという悔しい思いをすることもありました。でも、悔しい気持ちを押し退けてすぐに切り替えていかないと、舞台の初日は必ずやってきます。この役はやりたくないと思いながらその役をやったら、お客様にわかってしまいますし、やる気のない舞台などは絶対にお見せできません。だから、この壁を乗り越えれば絶対にまだチャンスは来るはずだ、頑張ろうというふうに気持ちを切り換えて、台詞がない役であろうと全力でやります。全力でやって乗り越えて、そして次のステップアップのために、たとえ通行人の役であってもその人の家族構成だったり、生きざまだったり、どういう環境にいるのかというのを考えてやっていきます。一つの舞台ができ上がるためには、そういう心が大事だということを私はすごく実感しています。
宝塚を退団するときもそうでしたが、私のファンの人が聞いて、自分のことと同じように悲しんでくれたり、そして喜ぶことも一緒だったり、一喜一憂してくださることがありがたくて、温かさを感じました。私は、宝塚がなかったら今の自分はいないだろう、こういう気持ちになれないだろうと思っています。宝塚というところはみんなを育てて一人一人が成長して、美しい人たちが育っていているので、お手本になる人たちにたくさん囲まれていることは、本当にありがたいことだというのを身にしみて実感した15年間でした。
では、次に肩凝り解消のストレッチをします。動かさないと凝りはほぐれませんが、ほぐすだけでは解消できません。でも、ちょっとした時間で肩凝りを治すということを自分の力で習慣にして少しずつでもやれば、必ず変わります。まず、肩に手を置きます。そのまま背中を丸くしながら肘をタッチします。つかなくてもいいので、タッチする気持ちで背中を必ず丸くします。そのまま今度は後ろに、タッチする気持ちで肩甲骨をグッと寄せます。そして、もう一度、息をフーッと吐きながら、タッチ、丸くします。肩回りをしっかり動かします。肩と背中のストレッチです。肩を動かして、しっかり真後ろまで引いてください。肩の稼働域も、凝っていたら動かなくなります。関節も固くなっていきますので、関節をやわらかくするために自分で動かしてあげる。前後に動かすだけです。これをやっていくと、肩回り、背中回りがどんどんやわらかくなっていきます。固い人は肩甲骨を寄せることさえ難しいんですが、年齢には関係なく、やれば絶対に変わります。習慣にすると必ず変わってきますので、やってみてください。
今度は肩に手を置いたまま、大きく後ろに回します。肩で大きな円を描くイメージで肩を外に、外に大きく、後ろのときは肩甲骨を寄せるイメージで、背中から大きく回しているイメージ。肩を小さく回すのではなくて、大きく、肩、胸を全部使って、大きく、大きく回してあげる。これを呼吸を行いながら、吸って、吐いてを繰り返しながら大きく動かしてあげる。そして、後ろから前へ大きく回す。ちょっとやるだけで血の流れが変わっていきます。体質は自分で変えていけます。意識的に動かしてあげることを習慣にしていけば体つきは変わるということを忘れないで、やってみてください。
宝塚を退団して今の職業に就いたわけですが、私は現役中に、厳しい大変な舞台をこなす体づくりをするために、ストレッチや柔軟体操などを生徒に教えていたので、それを一般の方向けにできないかなと思いました。劇団でやっているときはハードなストレッチだったので、一般の方にもできるようなスローテンポで簡単な動きにして、かつダイエット向けにしようと思ったんです。ダイエットというのは誰もが興味のあることですから、ダイエットの知識も入れてやることにしました。
でも、ダイエットの知識は全くゼロでしたので、そこを一からちゃんとやらなければいけないなと思って、ダイエットアドバイザー、ダイエットインストラクター、ダイエットマスターといったいろんな資格を全部取って、知識を全部頭に入れてから始めました。宝塚で学んだこともたくさんありますので、その知識も踏まえつつ、どうやったら美しくなっていくのかなというのを伝えていきたいと思いました。タカラジェンヌは、何もしなくても美しい別の生き物みたいな感じで見られますが、決してそうではなくて、同じ人間です。何できれいかというと、きれいになるための努力を欠かさないからです。自分を磨く努力を惜しまないからこそきれいを保てるわけで、デビューしたときよりもどんどん美しくなっていくのは、努力を欠かさないからだということを身にしみて感じています。一般の方たちも、そういう意識さえあれば必ずきれいになれるので、それを実践してもらっています。
私が退団して一番気になったのは、一般の方には姿勢が丸い人が多いことです。これはすごくもったいないと思うんです。劇団にいたときには、きれいな姿勢のタカラジェンヌたちに囲まれていたので全く気づかなかったんですけれども、やめて外に出たときに、人の姿勢がすごく気になりました。あの人は姿勢がよくなったらもっときれいになるのにもったいない、これを改善したら絶対よくなるのにと思うことが多かったので、姿勢改善も教えてあげたいという思いもありました。姿勢が丸くなっているのは本来ある姿勢の位置じゃないからなので、それを本来の位置に伸ばしてあげて真っすぐにあげる。自分の意識で後ろにしようとすることによって、骨の回りの筋肉も動かされます。自分で意識を持つと筋肉も動きます。そして、筋肉を動かすことによって回りの脂肪にも刺激を与えるので、脂肪も燃焼されて、骨のゆがみも治ります。歩いているだけでおなかの力も使いますので、姿勢よくきれいに歩くだけで筋肉が使われます。
そして、筋肉が使われると、筋肉量も増えて基礎代謝が上がります。座っているだけでもカロリーは消費されていますが、基礎代謝を上げるためには筋肉を増やさなければいけないんです。基礎代謝のピークは20歳ぐらいで、年齢とともにどんどん下がっていきます。食べる量と変わらないのに太ったとか、おなかの回りに脂肪がついたというのは、基礎代謝が落ちたからなんです。そして、筋肉も痩せ細って小さくなって動かなくなります。そうすると、筋肉が脂肪に変わって見た目がグーンと上がるんです。2キロの筋肉を脂肪に変えると、見え方としては脂肪のほうが大きいんです。体脂肪率を測ったときに、筋肉よりも脂肪のほうが多かったら、見た目はもっと大きくなります。筋肉で引き締まっている人とそうでない人と、同じ体重の2人が並んでいたら、脂肪が多い人のほうが体は大きいんです。だから、体重で左右されないでください。体重よりも体の中の脂肪率が一番大事です。健康であるためには、体を動かして筋肉の量を増やすように自分で改善していかなければなりませんが、だからといって、腹筋や背筋をやる必要はないんです。ちょっとした合間のストレッチが大事で、姿勢を正すだけで筋肉を使いますし、歩いているだけでも脂肪が燃焼されます。見た目も美しくなるし、ダイエット効果もあるので一石二鳥です。男性も、姿勢がよかったら仕事ができそうな感じがしますよね。シャキーンとしてスーツをカッコよく着こなして、いつまでもダンディーでいるためには、人からも見られる意識、人の視線を感じることも大事です。見られていると思うと、シャキッとします。ちょっとしたときに思い出すだけで、人ってきれいになるものなんです。そして、年齢も若く見えます。姿勢がいいというのは若返りですから、姿勢を意識して体幹を鍛えてあげてください。
私のレッスンでは、ペットボトルを使って姿勢をチェックします。ペットボトルを頭に載せて体の中にある軸の確認するんですが、姿勢の悪い人は、丸くなって軸が曲がっています。横から見たときに常に真っすぐ一直線できれいか、それとも前かがみか、肩のラインが横に来ているという意識を持った上で、頭にペットボトルを載せます。体の軸が真っすぐな人は、必ず頭にペットボトルが載って、歩くことができます。横を向いたときに軸がぶれない姿勢というのがすごく大事なんです。これは簡単に見えてすごく難しいです。きれいな姿勢であることが一番大事で、壁を使うとわかりやすいので、皆さんもお家でやってみてください。壁にかかとをつけてお尻をつけて、肩をつけて頭をつけて、そのまま頭に載せます。きれいな姿勢というのは、自分が思っているよりも結構後ろ目です。背中の意識を持って、肩甲骨をぐっと寄せてあげる。あごを引いて、背中をもっと張って、肩を意識して、おなかに力を入れて、姿勢を保つのは結構大変です。それぐらい筋肉と神経を使います。全身の神経を使うということは、歩きながらも運動ができているということなんです。これをやるときれいな姿勢の確認ができて、ここだというのが自分でわかります。まず、姿勢をきれいにすることが大事です。姿勢がいい人には目を引く美しさがありますが、これは誰でもできることです。誰でも姿勢がきれいになる権利を持っていて、意識を持つだけでも見た目が美しくもなります。そして、体の中の循環もよくなります。姿勢が呼び起こす奇蹟はすごくたくさんあるので、意識を持って体幹を鍛えるということをやってみてください。皆さんがこれからの人生を生きていく中で、今という時が一番若いんです。明日は一日年をとります。気づいた今が一番若いんですから、今やればこれから変わっていきます。どんどん新しい人生が花開きますので、ぜひやってみてください。
では、最後にもう一度ストレッチをします。基本姿勢からリラックスしていただきます。後ろに手を組んで、思いっきり肩甲骨をグーッと寄せて、手を引っ張って、グーッと肩甲骨を大きく、肩をグッと寄せます。肩甲骨を寄せて胸を張る。そして、グーッと背中をやわらかく、背中の血流を流していきます。背中には褐色脂肪細胞という体の中で一番痩せると言われている細胞がいっぱい詰まっています。背中をほぐしてあげると痩せやすい体ができ上がりますから、意識して肩甲骨を寄せると基礎代謝が上がっていきます。寄せて、グーッと上げて、胸を張ってやわらかくするというのを意識的にやってあげるとリラックスしていきますし、リンパが流れていますので顔がパッとしたり、脳がさえてきます。ちょっとストレッチするだけで全部つながっていますので、やってみてください。
そして、右に首をグーッと倒していきます。右手を挙げて頭に添えて、反対の手を肩に添えて、左の首筋をグーッと伸ばしてあげます。左の首筋がグーッと伸びているのを意識して、フーッと大きく息を吐いて、ゆっくり戻します。今度は左手を挙げて、頭、肩、息を吸って、大きく吐きながら引っ張ります。グーッと引っ張って、肩回りのストレッチ。大きくいっぱい伸びているのを感じます。リラックスして、力を抜いて、伸びているのを意識します。大きく肩と首をグーッと引っ張りながら伸ばしてあげます。これだけで首回りが楽になります。
体は本当に正直です。サボればサボった分だけの体になりますし、鍛えればちゃんと応えてくれるんです。変わっていく自分を知ってそれを喜びに変えて、私にもできるという気持ちで自信を持って、体幹のちょっとした変化にも気づいて、何事もやってあげる。何でもやろうという気持ちさえあればできます。ジムに通うとか外を走るとか、いろいろ考えたら気が重くなるし、やらされている感満載だと人は変わりません。でも、自分の心がやりたい、健康でありたい、きれいにカッコよくなりたいと思えればできます。健康になるためには自ら行動を起こして動かしてあげないと、変わらないんです。5分だけでも3分だけでも1分だけでもいいので、ちょっとだけストレッチで伸ばしてあげてください。すぐにできるような小さな目標を立てて、それを継続することが大事です。1回1時間やっても、その後1カ月何もやらなかったら全然効果がないんです。5分を毎日ちょっとずつ積み重ねていくほうが、体は変わっていきます。5分ができるようになったら、7分、10分と自分でできる時間を計算して増やしていきます。そうすると、5分がしんどかったのに10分できるようになったというふうに気づくことがうれしくなって、それが自信になって前向きに変わっていきます。そういう気持ちをつくっていくために変わろうというふうに気持ちを切り換えて、どんどん前に前に発信する。やればできるというあきらめない気持ちを持ってやれば、必ずきれいになりますし、カッコよくなります。そして健康になって、長生きができます。一つのいいことから奇蹟が起きて結びついて、いいことが連鎖して起こっていきます。そのために踏み出す目標を一つでも立てて、こうなりたいから頑張るという気持ちを自分でつくっていって、常に笑顔でいられるようなことを自分から発信して、前に前に進んでいただきたいと思います。
きょうは、宝塚時代から「マヨササイズ」に至るまでエクササイズを交えてお話ししました。宝塚を退団してダイエットアドバイザーとして活躍させていただける機会がなかったら、皆さんと出会うことはありませんでしたので、全てつながっていることに感謝しております。よりよい人生を歩むために前向きに、一つ一つコツコツとやっていけば変わるということを皆さんに実感していただいて、これからの生活に生かしていただけたら幸せに思います。私もこれからいろんなところで発信して、少しずつコツコツと頑張っていきたいと思います。皆さんに幸せな笑顔あふれた生活が舞い込んでいきますように願っております。お忙しい中、ありがとうございました。(拍手)
(了)